フリーズドライについて

フリーズドライ(凍結乾燥・lyophilization)とは水が低温・極低圧では凍った状態のまま「氷自体」が蒸発する「昇華」と呼ばれる現象を利用して、食品中の氷を、液体の水に変えることなく氷のまま水分を除去することで食品を乾燥する技術です。素材の栄養素や熱に弱い乳酸菌などのプロバイオティクスも生きたまま乾燥させる究極の乾燥方法です。

水の沸点と気圧の関係

気圧と水の沸点
気圧と水の沸点の関係図

水は地上では100℃で沸騰しますが、気圧の低い山頂などでは水の沸騰する温度(沸点)が下がります。富士山山頂では約87℃で、エベレスト山頂では71℃程度になります。さらに高度を上げ7万5千メートル程度の中間圏と呼ばれるほぼ宇宙空間(アメリカ空軍では8万メールから上を宇宙とみなしています)では水の沸点は-4℃程度となります。

その状態では氷は溶けて水になることができず、氷を熱などのエネルギーを加えて暖めると氷が直接水蒸気に変わります。この現象を「昇華」と呼びます。二酸化炭素を凍らせたドライアイスが固体のまま煙となる現象も同じく昇華現象です。

フリーズドライの仕組み

フリーズドライでは

  1. まず食品を冷凍して
  2. 気圧を水(氷)の沸点を-4~-15℃程度になるまで下げる
  3. その状態で、熱を加えて昇華して氷を取り除く

の行程を経て、食品を乾燥させます。


熱風乾燥など加熱して乾燥させる方法では、食品の多くの成分が水に溶け込んだ状態で、その水を沸騰させて乾燥させます。熱により成分が変化したり、食品の表面に栄養成分が濃縮してしまい、湯戻りが遅くなったり、中の味が薄くなったりします。

フリーズドライでは低温で氷が水蒸気に変わるので、食品の成分をほとんど変化させずに乾燥でき、もともと氷があった場所は空洞となるので、お湯を加えた際にその空洞に素早くお湯が染み込み、湯戻りが早くなります

水の三相図とフリーズドライ

例えば「ぶどう」を熱風乾燥すると加熱により果肉が変質してレーズンになります。一方フリーズドライするとぶどうそのままの状態で乾燥されます。

簡単そうに聞こえますが…

昇華と水蒸気
昇華と水蒸気のイメージ画像

気圧と体積

気圧が低くなると気体は膨張します。高い山の上ではポテトチップスなどの袋が膨らむのと同じ原理です。イチゴ1粒をフリーズドライすると27万リットル=25mプール1個分の体積と同じ水蒸気が発生します。フリーズドライ工場には高度7万5千メートルの状況を再現するために、非常に丈夫な潜水艦のような形をした容器(釜・チャンバーとも呼ばれます)を使用しております。

1釜には約1,500kgのイチゴを投入でき、フリーズドライすると東京ドーム12個分(1488万立方メートル)もの水蒸気が発生します。

FD用乾燥釜
FD用乾燥釜のイメージ画像

どうやって膨大な水蒸気を取り除くのか?

東京ドーム12個分の水蒸気を取り除くことはどんなに優秀なポンプを用いても困難です。釜内の気圧は低く、水蒸気は冷やされればまた氷に戻ります。そこで、コールドトラップと呼ばれる凝集設備で水蒸気を急速に冷やし、氷に戻すことで効率よく水分を取り除くことができるようになります。

フリーズドライ設備

フリーズドライ工場には高度7万5千メートルの状況を再現するために、非常に丈夫な潜水艦のような形をした容器(釜・チャンバーとも呼ばれます)に真空ポンプや釜内の温度を調整するための設備、昇華で発生した水蒸気を回収して氷に戻すコールドトラップなどが設置されています。

  1. 凍った食品を釜内に設置し、真空ポンプで空気を抜き、気圧を下げて高度7万5千メートルの状況を再現する。
  2. その状態では食品の中の氷の結晶は溶けて水にならず、直接水蒸気となる(昇華)。
  3. 発生した水蒸気をコールドトラップでまた氷に戻す。

このような方法で食品の中の氷を水蒸気にして食品から取り除き、釜内のコールドトラップで氷に戻すことで、乾燥が行われます


食品から氷結晶をコールドトラップに移し替える仕組み

フリーズドライでは氷が水蒸気に変わるので、食品の成分をほとんど変化させずに乾燥でき、もともと氷があった場所は空洞となるので、お湯を加えた際にその空洞に素早くお湯が染み込み、湯戻りが早い乾燥食品が可能となります。

フリーズドライの歴史

チューニョ
チューニョの画像

フリーズドライの原型はインカ時代にじゃがいもを冬場の低温、高地のための低圧状態で保管して作られていたチューニョと呼ばれる保存食がルーツ と考えられております。

1813年イギリスの科学者William Hyde Wollastonが英国王立学会に「昇華」について報告したことが記録されています。1910年には機械式真空ポンプを使ったフリーズドライ装置の原型が設計され、第二次世界大戦中にアメリカで血漿や医薬品をフリーズドライする技術が検討され、大戦後その技術を食品へ応用するようになりました。

1963年にOregon Freeze Dry Foods, Inc.が創立され、フリーズドライのイチゴを朝食シリアル向けに製造するようになりました。その後、ベトナム戦争が始まり米軍の軽くて長持ちする糧食を開発して欲しいというリクエストに応えフリーズドライ糧食の供給を開始、さらにNASAの宇宙飛行士にも地上のレストランと同じような美味しい食事を食べさせたいというリクエストに応え、フリーズドライ宇宙食の開発に着手、アポロ計画でフリーズドライのシュリンプカクテルやアイスクリームを初めとする様々な宇宙食が開発されました。

日本には1960年代の後半に技術が伝わり、70年代にカップヌードルやお茶漬けの具として用いられたことがきっかけで広まりました。

現在では非常食から日常一般的に食される加工食品の素材、お菓子だけでなく、分子調理法で有名なレストランでフリーズドライのフォアグラが使用されるなど、幅広く利用されるようになりました。

フリーズドライの特徴

素材の色、栄養、風味や食感を損なわずに乾燥ができます。

フリーズドライは低温・低圧で食品の中の氷を水蒸気に変えて取り除きます。だから、素材の色や栄養、風味や食感をほとんど変えることなく乾燥ができます。

例えば微生物を生きたまま乾燥させることも可能で、そのためヨーグルトなど発酵乳製品のスターターの乾燥に用いられています。フルーツではビタミンや熱に弱い栄養素をあまり損なうことなく乾燥でき、常温保管が可能な、手軽で美味しいおやつとしてアメリカの学校給食などでも利用されています。

ぶどうを加熱乾燥するとレーズンになりますが、ぶどうをフリーズドライすると、サクサクした食感にはなりますが、味や栄養成分はぶどうそのものです。

生鮮ぶどうの画像
熱風乾燥
ぶどうを熱風乾燥したレーズンの画像

生鮮ぶどうの画像
フリーズドライ
フリーズドライぶどうの画像

お湯(水)を注ぐだけ、簡単に素早く食べられる状態に戻ります。

フリーズドライは食品の中の氷を取り除く技術。乾燥後の食品には氷があったところが隙間となります。お湯や水を注いだ時にその隙間から食品の内部に染みわたり、素早く食べられる状態に戻ります。

フリーズドライの直火焼き鶏胸肉やハンバーグパテではなんとお湯を注いで30秒待つだけで食べられる状態に!

乾燥前
乾燥前のビーフパテの画像
乾燥後
乾燥後のビーフパテの画像